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柏木由紀 アイドルとして 限界まで

※本記事は2015年5月20日に朝日新聞デジタルで掲載されました。

秋元康さんが私の生い立ちやAKB48での経験を元に作詞して下さった「火山灰」という歌があります。ある日、秋元さんから「鹿児島弁で『頑張る』ってなんて言うの」と、突然、メールをいただいて、「きばる」と言います、とお伝えしたら、数日後、歌詞が届きました。

そこには、家族に内緒でAKB48のオーディションを受け、上京したことや故郷への思いなどがつづられていましたが、秋元さんに私の経験を直接、話したことがなかったので、どのようにして作詞されたのか、今でも不思議です。

「火山灰」と言えば、中学時代の通学路から桜島がよく見えました。私は小さい頃から地元を訪れるアイドルのコンサートに足を運び、私もあのステージに立ちたい、と願うようになりました。鹿児島は私の夢をはぐくんでくれた街です。

23歳。8年前に鹿児島県から上京。新グループ「NGT48」との兼任に=岡田晃奈撮影

私が所属するユニット「フレンチ・キス」のCDにおさめられた曲ですが、メインタイトルでもなく、ライブで歌う機会もなかったので、知名度もありませんでした。初めて歌ったのは、2013年にあった初のソロコンサートのとき。普段はメンバーたちと一緒ですが、そのときは一人。すごく緊張していて、「火山灰」も失敗しないように歌うのが精いっぱいでした。それからしばらくして2度目のコンサート。5千人以上の方が来て下さいました。

このときは気持ちに少し余裕があったので、1曲、1曲に感情移入できました。そして「火山灰」。歌いながら、AKB48に入ってからのことをひとつずつ思い出しました。その日は母が会場にいました。母はずっと私の相談相手で、支え続けてくれました。だから、こっそりオーディションを受けた歌詞のパートは、客席にいる母を見ながら歌いました。

5千人以上のファンの方の顔がひとりひとりわかります。サイリウムが揺れ、応援グッズも私一色です。私はAKB48に入ってからは、厳しい流れの中で必死にしがみついて、やるべきことをやってきました。「ここまで来たんだ」。そう思いながら「今さら立ち止まり振り返れない」と歌ったら、本当にその時の私の心と重なり、涙が出てきました。私は人前で泣くことが絶対にイヤで、選抜総選挙でもけっして泣きませんでした。だけど、我慢ができなくて、涙がこぼれると、会場から「ワーッ」と大きな歓声が響き、「がんばれ!」というファンの方の声が聞こえました。それでも涙が止まらず、曲の最後のあたりは歌えずに終わりました。

「火山灰」はいつの間にか、私の代表曲になりました。AKB48に合格したのは中学3年生のとき。その頃の夢は「アイドルとしてステージに立ちたい」でした。250人のAKB48劇場から、会場の規模がどんどん大きくなって、昨年は国立競技場では7万人のお客さんを前にライブをしました。

柏木由紀さん=岡田晃奈撮影

最近は後輩たちを育てたい、という思いが強くなっています。私もいつか卒業しますが、その前に、色々なことを伝えたい。悩みがあれば遠慮なく声をかけて欲しいし、もっと個性を出せるように力になりたいです。

昨年はNMB48を兼任、4月は新しく誕生したNGT48の兼任が発表されました。

NMB48では、メンバーから「学びました」と言ってもらえたこともあります。

NMB48はふりをそろえることに力を注いでいますが、AKB48はメンバーの個性が大事。自由に動きやすい曲では、ステージからおりたり、タオルを投げたりしている姿が新鮮に思われたようです。

NGT48では、北原里英を支えたいと思っています。経験者がいるとチームも違います。秋元さんは、NGT48を引っ張るという気持ち以上に、自分のファンを増やすつもりでがんばってくださいと言ってくださいました。自然体で後輩らに背中を見せる行動を期待されているのかな、ととらえています。後輩たちが育ち、AKB48がずっと今の姿のままでいて欲しいし、ずっとAKB48にいたことを誇りに思っていたいです。

アイドルには寿命があるとは思いますが、限界に挑戦し、できる限りアイドルでいたいです。たとえば、アイドルの大先輩である松田聖子さんは結婚や出産、子育てを経た今もあらゆる世代からアイドル的な存在として認められています。そんな未来を目指していきたいです。

歌やダンスだけではなく、何でも体験できるのがアイドル。テレビやラジオ、CM、グラビアとたくさんの経験をしてきました。苦手意識のあったお芝居も好きになりました。ドラマ「黒服物語」で物語に深くかかわる役をいただいて、「やるしかない!」と頑張りました。それまでは自分の演技が下手とマイナスに感じていましたが、映画やドラマを見て、研究をして体当たりで臨みました。これからも成長をしなくちゃ、と考えています。

私の強みはぶれないことです。ずっとファンの方の気持ちになって、一緒に楽しもうと思ってきました。アイドルはファンの方がいるおかげでステージに立てます。卒業したあとも、その気持ちを大切にしていきたいたいです。

柏木由紀さん=岡田晃奈撮影

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