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おもちゃなのに「浮いて走る」リニアモーターカー タカラトミー開発者が明かす秘話

※本記事は2015年6月15日に朝日新聞デジタルで掲載されました。

凄腕(スゴウデ)つとめにん

タカラトミー 企画開発課係長(34歳)

全長25センチのリニアモーターカーが、2ミリだけ浮いたまま4.5メートルの周回コースを走りだした。まず1周目を7秒ほどで回り、さらに加速。周回ごとに5秒、3秒と速度が上がり、車体がビュンビュン流れていく。

9月発売予定のおもちゃ「リニアライナー」。JR東海のリニア新幹線「L0(エルゼロ)系」を90分の1サイズで再現した。希望小売価格はレールやトンネルもセットで3万5千円(税抜き)。5月の発表後、会社には予約や問い合わせが相次ぎ、「予想を上回る反響」(タカラトミー)という。

進む原理はこうだ。車両に積んだコイルに電流を流してつくった磁界が、レール内の丸い磁石と反発して前進。すかさず電流を止めて惰性で進み、次の磁石を過ぎたら電流を流してまた反発。これを1周112回、高速で繰り返す。車両の磁石と地上のコイルで走る実際のリニアとは仕組みが違うが、本物に近づけるため、磁力での浮上走行にこだわった。時速約6キロだが、実物大だったら本物並みの時速500キロで走っている計算になる。

走行原理までは開発していたプロジェクトに加わることになり、昨年11月に山梨県都留市のリニア実験線へ。一瞬で目の前を過ぎていく様子に「稲妻に打たれたような衝撃」を受けた。迫力ある臨場感とスピード感を再現しようと心に誓った。

試作品は2両編成だったが、本物に近づけるため、4両に変更。重くなった分、車両部品の重さを0.01グラム単位で調整して浮力を保った。レールの磁石は子どもが誤飲しないようにレール内に埋め込んだ。付属品のトンネルには、「ドーン」という微気圧波を和らげるため、実物に開けてある細かい穴まで再現した。

幼い頃からおもちゃ好き。母の買い物に付き添うと、おもちゃのおまけがついた菓子(食玩)をお駄賃代わりに買ってもらえた。母がほかの買い物を済ませている1時間が、売り場で品定めできる至福の時だった。

大学時代もアルバイト代はフィギュアやプラモデルに消えた。卒論のテーマは「食玩」。そしておもちゃメーカーに就職した。同僚の大伴貴広さんは「課題を解決するためには妥協しない職人肌」という。

それは鉄道おもちゃ「プラレール」でも発揮された。50年以上のロングセラーに、新たに加えた「プラレールアドバンス」。従来の半分の幅の車両を開発し、1本のレール上で二つの車両が並走したり、すれ違ったりできるようにした。車両の形や色は実物に近づけ、大きさも1ミリ単位で調整。「マニアに響くのは、カーブで二つの車両がすれ違う瞬間。車両同士がこすっちゃうのはだめだけど、離れすぎてもスリルがない。ギリギリを狙った」。グッドデザイン賞を受賞し、大人もとりこにした。

もともと鉄道に詳しいわけではなかったが、休日には各地の列車に乗るなどして「鉄分」を高めた。「みんなの潜在的な期待や欲求を上回って夢を現実にする。そんなおもちゃを世の中に届け続けたい」(末崎毅)

 <プロフィル>
いのうえ・たくや 兵庫県福崎町出身。筑波大芸術専門学群で彫刻やデザインを学び、卒業後の2005年に旧タカラに入社。動かして遊べる動物フィギュア「アニア」の開発なども手がけた。

凄腕のひみつ

■ペダルこぎひらめき

体を動かすのが好き。東京都内の自宅から葛飾区の本社まで、自転車通勤する。距離は片道約7.5キロ。電車と並走しながら荒川を橋で渡り、隅田川沿いのサイクリングロードでは東京スカイツリー(墨田区)を眺めるコースが気に入っている。約40分の道のりで楽しくペダルをこぎながら、商品のアイデアが浮かぶこともある。

■アイデアノート13冊

開発を支えるのが、おもちゃのデザインなどを下書きするノートだ。「風呂につかるといい考えが浮かぶ」ことが多く、自宅にも持ち帰る。構想は、すでに13冊分たまった。

井上拓哉さんのアイデアノート

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