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マンガの「聖地」を訪ねる トキワ荘跡地周辺に残る神々の足跡

※本記事は2018年2月8日に朝日新聞デジタルで掲載されました。

マンガの神々、街が守る

手塚治虫に始まり、藤子不二雄、赤塚不二夫、石ノ森章太郎……。昭和30年前後、漫画の神々が駆け出しだった頃に創作に打ち込んだ伝説のアパート「トキワ荘」。解体後35年たっても、漫画家を志す人には聖地だ。2年後に建物の復元が決まり、「マンガの街」を目指す東京都豊島区の現地を訪ねた。

西武線椎名町駅を出発。関連資料の展示もある駅の南口階段では、トキワ荘の巨大壁画がお出迎え。漫画家9人の自画像とキャラクターが一堂に会した絵は、レアものだとか。駅の側壁には散策マップがあり、ゆかりの地が漫画家の絵で紹介されている。

駅南口の階段の途中にあるトキワ荘の巨大壁画=西武池袋線椎名町駅
グラフィック・若泉祥子

椎名町公園から目白通りへ。住人御用達の銭湯(マップ中の〈1〉)や目白映画〈2〉、常食にしていた10円コッペパンの菊香堂〈3〉……。道すがらの場所には、赤いホーロー看板がかかるのみ。当時の街の様子は藤子不二雄(A)の「まんが道」「愛…しりそめし頃に…」に詳しいが、にぎやかに人が行き交い、都会感満載に描かれた商店街の今の様子は、どこか寂しい。

「ゆかりの建物はほぼ残っていません」と、「としま南長崎トキワ荘協働プロジェクト協議会」の小出幹雄さん(59)。1952年に棟上げしたトキワ荘は老朽化で82年に壊され、跡地は出版社に。「一回りで何でもそろう」と言われた商店街は、後継者難などで相次ぎ閉店。漫画家が出版社との連絡に使い、かろうじて残った電話局の建物も2年ほど前に解体された。

「このままでは何もなくなってしまう」と危機感を募らせた商店会や住民が豊島区に働きかけ、2009年に記念碑「トキワ荘のヒーローたち」を完成させた。住民や関係者、区が協働し、資料収集や講演会、漫画家のワークショップなどを企画してきた。「失われたトキワ荘の構造だけでなく、街の貴重な歴史も掘り起こせた」と小出さん。

成果は5年前に区が整備した「トキワ荘通りお休み処(どころ)」に展示されている。築90年の米屋を改装した2階には、トキワ荘の復元模型や資料とともに、まとめ役だった漫画家の寺田ヒロオの部屋を再現。1階は散策マップなどの情報を提供するほか、ゆかりの漫画家の作品など約1千冊の蔵書を閲覧できる。中には虫プロ商事が発刊した雑誌「COM」などお宝本も。

2009年にできた記念碑「トキワ荘のヒーローたち」=南長崎花咲公園
トキワ荘通りお休み処では、寺田ヒロオの部屋を再現。スタッフが常駐し、説明を聞くことができる

お休み処近くのアパート「紫雲荘」は築59年で、ほぼ当時のまま残る数少ない建物だ。この裏がトキワ荘だった。幼かった家主の大山朱実さん(62)は「何者か分からない若者が昼から大勢いる不思議な場所だった」と振り返る。目を盗んで遊びに行き、道にろう石で絵を描いてもらっていた。相手はどうも赤塚、石ノ森、藤子・F・不二雄だったらしい。「どうりでうまかったはずです」

紫雲荘は後に赤塚が仕事場にした。その202号室は区の催しを機に空け、仕事場を再現。年に数回、イベント時に特別公開する。同じ2階の3部屋は漫画家のタマゴに貸している。家賃半額を補助する協議会と区の協働企画で、3期生が入居中。大山さんは母親代わりに見守る。「出世部屋ですから、大きく羽ばたいてもらいたいですね」

中華料理「松葉」も数少ない当時からの店だ。「まんが道」などには「ンマーイ!」ラーメンに舌鼓を打つ様子が頻繁に登場する。今は先代の息子の妻、山本麗華さん(53)が一人でのれんを守る。「巡礼」の客も多く、店のノートにはイラストと共に「ついに来たよ」と書き込みが。寺田が考案した焼酎のサイダー割「チューダー」もある。

トキワ荘の漫画家を知ってもらおうと、協議会と区は街の各所に作品モニュメントの設置を進める。南長崎公園には、藤子作品に登場するラーメンが大好きな「小池さん」のモデルとなった鈴木伸一氏の描きおろしパネルが。東長崎駅のレオとライア像のほか、足を延ばせば、知る人ぞ知る漫画家の寺田や森安なおやの作品の一端に触れられる。探してみては。(帯金真弓)

トキワ荘ゆかりの地には、解説付きの看板が設置されている
トキワ荘グッズなど

手にはGペン、なでれば御利益?

椎名町駅前の真言宗豊山派「金剛院」は、500年の歴史を誇る古刹(こさつ)。弘法大師像の脇に立つのが「マンガ地蔵」だ。カブラペンを背にした地蔵の手にはGペン、衣はマンガのようにコマ割りされ、「カリカリ」「シャッシャッ」といった擬音の模様も。「トキワ荘にちなみ、『創造』する人の縁を結ぶ幹になれば」と野々部利弘住職。

漫画家志望者らが御利益を得ようとなでていくそうで、建立3年で鼻が金色に光るほどに。昨春からは、地蔵を表す梵字(ぼんじ)とその姿の線画が印刷された「マンガ御朱印」(200円)の授与も始めた。

同院には直営のカフェ「なゆた」があり、野菜を中心とした「お寺ごはん」やスイーツを楽しむことができる(火曜定休)。

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