負け組の仕事だと… 渡仏した帽子職人、「人間国宝」に
フランス国家最優秀職人章を受けた日爪ノブキさん
ファッションの本場パリで有名ブランドの帽子を作り続け、「フランスの人間国宝」とも称される仏国家最優秀職人章を、帽子部門で日本人で初めて受章した日爪ノブキさん(40)。服飾デザイナーを志したが、あることを契機に帽子づくりの道へ。渡仏後2年で国外退去通知を受けたが、取引先から救いの手が……。
2段重ねのような複雑な曲線のハットは革製。水と蒸気で長時間かけ形作る。「伝統の職人技と、前衛的デザインを併せ持つのが僕の強み」。「フランスの人間国宝」とも称される仏国家最優秀職人章(MOF)を昨年5月、日本人で初めて帽子部門で受章した。
帽子の道は想定外だった。
滋賀県出身で、大卒後に服飾デザイナーを志し、都内の専門学校へ。花を模したドレスが評価され首席で卒業した。「帽子なんて傍流で、負け組の仕事だと思っていた」
転機は15年前。舞台用に依頼を受けて作った、羽根を使った巨大なヘッドピースが好評で帽子の受注が激増。服づくりの際に悩まされた金銭面や人間関係のトラブルが一切なく、「服より帽子づくりが僕の使命かも」と思い至った。
30歳の時、文化庁の海外研修制度で渡仏。高級ブランドの帽子を担う工房で、勤勉さと作業の正確さで頭角を現した。「技術と、自らに限界を設定しないことを学んだ」。しかし2年後、ビザ更新が認められず国外退去通知が届く。
救ってくれたのは取引先のエルメスやクリスチャン・ディオールだった。「彼は仏ファッション界に必要な技術を持つ人材」と説き、異議申し立てが認められた。「あの時、パリに骨をうずめることを決意した」と振り返る。
昨年独立し、ブランドを設立。夢は「全人類に帽子をかぶせること」だ。(文・写真 後藤洋平)