TIME&STYLE代表・吉田龍太郎さん 職人の手仕事を生かす家具作り
木地を生かした引き戸タイプのキャビネットに、鉄さびを使って黒く染めたダイニングテーブル。秋田杉の指し物に美濃和紙を貼ったあんどん形の照明が、兵庫県姫路市で作り、同県豊岡市で加工した革を使ったアームチェアを照らし出す──。
東京都港区のミッドタウンにあるインテリアショップ「TIME&STYLE」は、和と洋が融合した、他に類を見ない空間だ。同ショップの代表と、展示されている家具やテーブルウェアのデザイン、製作販売を行うプレステージジャパンの社長を創業時から務めてきた。
ただ家具を販売するのではなく、生活スタイルを提案する。そんな理念を掲げる吉田さんが「PRESTIGE JAPAN」をドイツ・ベルリンで立ち上げたのは1990年。2年後には再生紙を使ったドイツの家具のライセンスを取得。東京で生産販売を始めた。だが、当初は「失敗の連続だった」という。
原材料を手に入れようと大手の製紙会社を回ったが、どこも相手にしてくれない。知人の紹介で素材と加工業者のめどをつけ、スタートを切った。その後、木製家具を手がけ、97年には東京・自由が丘にカフェとアートギャラリーを併設したインテリアショップ「TIME&STYLE」をオープンした。
だが、2000年を過ぎたころ、転機が訪れる。「売れ行きが頭打ちになり、どんな家具が求められているかが、わからなくなった」。そこで思ったのは「作りたいものを作る」という当初の志に帰ることだった。
自分たちで家具をデザインし、自社工場の職人が作って、自店舗で売る。そうして生まれたのがシャープでモダンなデザインの家具だ。人気を集め、顧客も増えたが、やがてモダンな中に柔らかさのある、丸みを帯びた、日本文化を感じさせる現在のデザインへかじを切った。
これらの過程で実現したのが日本の伝統産業とのコラボレーションだ。「世界をみても、日本ほど手仕事を大事にし、腕のいい職人が多い国はない。その技術を家具作りに生かしたかった」。冒頭で紹介したシンプルかつ繊細な家具はその成果だ。
島根県江津市の石州嶋田窯の3代目・嶋田孝之さん(72)は、壺(つぼ)などの大物を得意とする石見焼の技術を生かし、陶製のスツール(腰掛け)を共同製作している。「デザインを押しつけるのではなく技術が生かせる提案をし、それを一緒に作りたいと言ってくれた。気が合った」
「伝統産業は素晴らしい技術を今なお保持している。それらを現代に生かし、日本のものづくりの素晴らしさを世界に発信していくのが私のミッション」と吉田さんは話す。
──会社のスタートはドイツだったわけですが、なぜドイツへ?
父が若いころ、ブラジルで仕事をしていた経験があったので、「大きくなったら世界に出ろ」と言われて、漠然と海外にあこがれていました。参加したのは独日協会の文化研修で、20歳の時、酪農家の自宅に住み込み、毎日朝の3時半から働きました。
──でも研修期間が終わっても帰らなかった。
何かを得て帰りたかったので現地に残り、25歳ぐらいまで旅行会社などで働きました。その過程で、ドイツ人はライフスタイルや家族の時間を大切にし、インテリアも長く使っていることに気づきました。「これは日本と全然違う。このスタイルを日本に紹介したい」と思うようになりました。
■木の良さ伝える
──で、会社を作った。
ベルリンの空港の近くに、弟たちと事務所兼住居の部屋を借りてのスタートでした。再生紙家具を扱ったきっかけはその工場がたまたま事務所近くにあったからです。エコロジーがうたわれ始めた時代にデザイン性が高いものづくりを実践していた。「コンセプトがいい」と思ってライセンスを取り、帰国して日本で生産を始めました。
──売れましたか。
販路がないので、最初はダメでしたが、展示会などに出展していたら、エコロジーでローコストということもあり、少しずつ売れ出しました。ただし、再生紙の家具は耐久性の問題もあって何世代も使われるものではありません。そこで、やりたかった木工の家具を手がけるようになりました。
当初10年くらいは角張ってエッジの利いたシャープなデザインのものを売っていました。でも、やがて多面体でものを作ることに限界を感じてきたんです。木が持つ素材の良さが伝わらないとも思いました。
そこで自社の品に自分でかんなをかけてみたところ、製品の緊張感を保ちながらエッジがとれるとわかった。それで2011年から、丸みを帯びた柔らかな表情の家具に変わっていったんです。
■物語が見える品
─伝統産業との協業を重視していますね。
日本は職人の国です。昔のままのものを、デザインを変え、汎用(はんよう)性を付加することで、今は分断されている伝統産業をライフスタイルという世界観の中で集約することができる。とても可能性を感じました。
最初のコラボは1998年。清水(きよみず)焼の窯元に白磁のカップ&ソーサーを作ってもらいました。清水焼は絵付けに特徴があるのに、真っ白で透き通るように薄くしてほしいと頼みました。「売れるはずがない」と言いつつつきあってくれ、産地は変わりましたが、今、定番商品になっています。
大事なのは、それぞれの伝統産業の本質を生かすこと。たとえば、うちでは照明器具に美濃和紙と石州和紙を使うのですが、素材や工程といった本質的部分は変えず、厚さやサイズは従来品と異なる製品を作ってもらっています。コラボをするには、実際にものづくりの現場を見て、それがどういうものかを知らないと良い製品はできません。デザインだけ持ちこみ、「これを作って」と言ってもまったく通用しません。
──自社工場を造ったのは、木材のロスを減らすためと聞きました。
地方自治体の保護林や研究機関の保有林などで伐採された国産材を活用しています。木材は端材が出るため全体の3割しか使えないと言われますが、製品のサイズが分かれば、無駄なく製材できます。木くずは燃料にし、端材も家具の裏の構造部に使っています。
毎年、自社工場の社員が数千本の植林をし、適齢期の木だけを伐採して1~2年自然乾燥させた後、木の組成を殺さない、低温のバイオ乾燥を2カ月行います。製材までに通常の倍の時間がかかるのですが、素材や製品に対するこだわりと愛着がなければ、お客様に思いは伝わらない。経営効率だけ追求すればいいというものではありません。
──TIME&STYLEの家具は良質ですが、それなりの価格です。安価な製品が出回るなか、どこにこだわっていますか。
近年、日本では「いいものを長く使いたい」というお客様が増えています。よい家具は年を経ることで風格を増しますが、デザイン性に優れた長く使えるいい家具を提供できる日本のメーカーは非常に少ない。
人の手が感じられない工業製品に、一部の人は違和感を覚えています。その傾向は日本より海外で強い。
「いいもの」は「高級なもの」ではなく、その製作プロセスや技術的背景も含めた物語が見えるものを指します。そして、いいものを作れる職人が日本にはたくさんいます。ITばかりが吹聴されていますが、日本の本当の財産は全国各地に伝承されている伝統産業です。まさに世界に誇れる資産と言えるでしょう。
(文・宮代栄一 写真・山本裕之)
■プロフィール
★1964年、宮崎県生まれ。自然に恵まれた環境で、元気いっぱいに育った。父親によく肩車をしてもらったという。中学・高校と野球部に所属し、野球づけの日々を送る。
★20歳の時、独日協会の文化研修事業に参加し渡独。そのままドイツに残って、90年、ベルリンで弟の吉田安志さん(48)=現在は自社工場責任者=とPRESTIGE JAPANを立ち上げる。
★2年後に帰国して再生紙家具の販売開始。97年には東京・自由が丘にTIME&STYLEの1号店をオープンする。カフェ併設のゆったりした空間が人気を博した。現在、国内4店舗のほか、アムステルダムに直営店、ミラノ、ニューヨーク、シンガポール、上海に代理店を置く。
★趣味は読書。遠藤周作、北杜夫、星新一、ヘルマン・ヘッセなどを好む。ショールームの本棚に飾られた本は自身の私物だ。