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戦国物に「軽井沢」OK? 真田丸プロデューサーに聞く

※本記事は2016年4月3日に朝日新聞デジタルで掲載されました。

真田ブームに火を付けた、NHKで放映中の大河ドラマ「真田丸」に制作統括として携わっているプロデューサー・屋敷陽太郎さん。今なぜ真田幸村(信繁)を主人公にした物語を世に問うたのか、ドラマの制作過程などについてインタビューした。

脚本家の伴走者

大河ドラマは大体3年かけて作っています。プロデューサーというのは一番最初の企画を立てるところから、脚本家に頼んで、キャスティングして、脚本のチェックをして、と本当に泥くさい仕事ばかりする雑用係みたいなものなんです。制作体制をかためたり取材をしたりして、実際の制作に入るのはだいたい1年半くらい前からでしょうか。

現場は監督のもので、プロデューサーはあいさつには行きますがあまり顔を出しませんね。撮影が終わったあとの、音楽や編集作業ではまたチェックを行います。基本は脚本家と一緒に取材に行って、上がってきた脚本の校閲をしたり、分かりづらい部分を直したり、と伴走者のような存在ですね。

時代劇ならではの作業としては歴史考証のチェックがあります。流れでいうと、三谷さんから来た脚本を歴史学者の方たちと、一言ずつチェックします。

たとえば、第1話だったかな、信繁と信幸が敵から隠れながら移動する場面で、信繁役の堺雅人さんが「十石峠を抜けますか」と言って、大泉洋さんが「いや、軽井沢に向かおう」という会話があります。ここで「軽井沢なんて近代になって開発された避暑地の名前が出るのはおかしい」と思われた方もおられるかもしれません。

しかし軽井沢というのは中山道の宿場として歴史があって、武田勝頼の出した書状にも名前が出てくる。そして十石峠のほうは当時の動きからすると敵の勢力範囲内です。そちらに行ったら捕まっていた可能性が高い。こういった裏の選択肢についても、裏付けはちゃんととってます。

その他にも「『知恵』という言葉はこの時代にあるのか」「この場面での呼び方は『真田安房守』か『安房守殿』か、いや単に『安房』だけでいいんじゃないか」などなど、一言一句検討して、それを三谷さんに戻します。これを脚本が来るたびに最低でも2往復、多いときは5回くらいやりとりします。最新の研究を元にするので、視聴者さんが歴史の授業で習ったことと違っていたりしてツッコミがくることもあります(笑)。

NHK大河ドラマ「真田丸」制作統括の屋敷陽太郎プロデューサー

最新の研究を生かした「真田丸」

ドラマを見られた方から「おいおい、こんなにあっさり本能寺の変や山崎の合戦が終わっちゃうのかよ」という声も聞くんですけど、実は真田家の目線で描けば、本能寺も山崎も遠い国でやってる遠い話なんですよね。

今まで戦国時代の研究というのは、京都を中心にした関西視点が主で、関東のことはあまり視野に入れていなかった。それが近年になって、若い世代の研究者を中心に、関東の戦国時代について新しい知見が次々に発表されているんです。

例えば有名な小牧・長久手の戦い(1584年、羽柴秀吉と織田信雄・徳川家康が争った戦役)も、これまでの関西中心の目線では「兵力では圧倒的だった羽柴側がなぜあそこで決戦しなかったのか」ということがよく分からなかった。これも実は、関東方面の勢力争いが裏で豊臣や徳川に影響していた、ということが本当にここ数年、研究が進んで分かってきた。関東視点の歴史をひもとくことで、今までの歴史の裏側を描けるようになったんです。

NHKの過去の先輩たちが大河で真田幸村を主役にしなかった理由というのも、よく分かるんです。これまで真田幸村は最後の1年以外、詳しいことが何にも分かっていなかったんですね。史実に沿ったドラマという意味では難しい部分があるんです。その意味で大河ドラマ「真田丸」は、研究が充実してきたこのタイミングだったからこそ実現できたと言えるかもしれません。

NHK大河ドラマ「真田丸」制作統括の屋敷陽太郎プロデューサー

時空を超えるドラマの魅力

大河ドラマの魅力というのは、タイムスリップして違う時代を体験できることにあると思います。当時には当時の考え方があって、女性観、死生観などが現代とは違う状況で生きています。そこを無視しては、ドラマの舞台がただ過去になっているだけですよね。番組開始と共に全然別世界の生活を体験し、番組が終わると現代に帰ってくる、これが大河の魅力です。

かといって完全に現代の人間と隔絶していては見ている方が感情移入できない。跡継ぎが生まれない正室を冷遇して妾(めかけ)を何人も持っているというのも、当時は普通でも、そのまま描いて喜ばれるかというと……。

ただ私はどんなドラマも、基本はホームドラマだと思ってます。家庭というのはどんな時代を生きても避けては通れない最小限の生活の単位です。いつの時代も家族という単位や、喜怒哀楽のポイントというのはそう変わらないはずで、そこを描くのがドラマだと思っています。

今、海外の歴史ドラマが非常によくできていて世界中で見られています。たとえば「ゲーム・オブ・スローンズ」(ファンタジー小説を題材とした米国の連続ドラマシリーズ)という作品は、描かれているのはほぼ中世イギリス史です。中世やSF、ファンタジーなど、今の視聴者は舞台が変わっていても受け入れてくれる素地がある。

そういった意味で、日本の時代劇というのも、本当に世界に通用するドラマなんじゃないかと思っています。



〈やしき・ようたろう〉 1970年、富山県出身。93年にNHKに入社し、ドラマ制作に携わる。主な作品に「新選組!」「江~姫たちの戦国」「64(ロクヨン)」など。(朝日新聞出版コミック編集部・寺田亮介)

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