初ミュージカルの土屋太鳳、表現は「大切な人の野性」
土屋太鳳が初めてのミュージカルで東京・帝国劇場の大舞台を踏む。世界的な名作映画を東宝がオリジナルミュージカル化した「ローマの休日」のアン王女役。「見て下さる方々と同じ空間で役として生きることができるのは本当にうれしい」と開幕を心待ちにする。
子どもの頃に映画を見て、アン王女の可愛らしさやコミカルな魅力に心を奪われた。後半のオードリー・ヘプバーンの豊かな表情からは「本物の自分を見つけながらも、求められる役割へと戻っていく決意の哀(かな)しさ」を感じた。
「おとぎ話のように美しいのですが、実はとても現実的な物語。それなのに、なぜか見た人が感じた夢は消えないまま幕を閉じる……。2人の願いや祈りがいつの日か実現するんじゃないかと感じる『希望』が、ほんの少しだけれど存在する物語でもあると思う」
東宝はこの名作を1998年に世界で初めてミュージカル化し、大地真央と山口祐一郎の主演で初演した。今回はアン王女を土屋と元宝塚歌劇トップスターの朝夏まなと、新聞記者のジョーを加藤和樹と平方元基のダブルキャストで上演する。「皆さん大先輩なので、稽古での姿を目の前で、無料で拝見していいのかなと、ハラハラしながら勉強させていただいています」
2018年1月に見た初舞台「プルートゥ」での彼女は印象的だった。浦沢直樹×手塚治虫原作のロボットをめぐるSF黙示録的な世界をベルギーの鬼才振付家・演出家シディ・ラルビ・シェルカウイが舞台化。アトム役で主演した森山未來らが自在に演じ、踊る中で、ウランとヘレナの2役を演じ分け、練達のダンサーに伍(ご)して踊った。作品は欧州3国を巡ったツアーでも人気を博した。
「ラルビさんは『見る人と同じ宇宙にいることを感じて踊りなさい』と教えて下さった。それが舞台の難しさであり、最大の魅力だと思います」と振り返る。
今回はアン王女をどう演じるのか。
「内面には葛藤があふれていて、近くにいる人すらそのつらさを理解しない。孤独から手を伸ばして『誰か!』と訴えるような気持ちは、見る方々の心や経験と重なる部分もある。映画のイメージと私の姿は異なりますが、心はアン王女として生きます」
自粛期間中に歌詞の作詞などをして、こう考えた。「表現とは、人と人の心がつながり続けることを諦めない、大切な『人の野性の一部』ではないでしょうか」
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堀越真脚本、山田和也演出、大島ミチル音楽、斉藤由貴作詞。4~28日、東京・帝国劇場。電話03・3201・7777。12月19~25日に名古屋・御園座、2021年1月1~12日に福岡・博多座でも上演。(編集委員・藤谷浩二)