大人の階段、どう上る? 「星の子」に主演、芦田愛菜
主人公ちひろに、すっかりなじんでいた。「でも、役作りはそれほどしていないんです。監督にも作り込まないでと言われていました」。さらりと言うが、名子役として名をはせた演技派が「自然体」まで手にしているのなら無敵ではないか……。
演じたちひろは友達とはしゃぎ、恋に浮かれる、どこにでもいそうな中学3年生。他の人と少し違うところがあるとすれば、両親が“あやしい宗教”を深く信じていること。そのせいで、家族は周囲の冷たい視線を浴びている。思春期だから、反発もある。本作は、そんなちひろの繊細な心模様を丁寧に描いていく。
「ちひろなら、こんな時はどうするだろう、どう考えるのだろうと現場の空気を感じ取りながら演じていきました。大森(立嗣)監督も、こう演じてほしいとは言わず、ちひろを作るためのヒントや課題だけを出してくれたように思います」
今村夏子による同名の原作小説や脚本を読み、「信じるとは何か」というテーマについて考えさせられた、という。「人の知らない側面が見えた時に『裏切られた』『期待していたのに』と思わず、それもその人だと受け止められる、揺るぎない自分を持てること。それが信じることなのかなと感じました」
ハッとさせられた。ちひろは確かに、宗教を妄信する家族が世間に異様だと思われていることに気づき、「両親に裏切られた」と感じている節がある。けれど、物語が進むにつれ、そんな家族でも受け入れていこうと決意しているように見える。芦田は、大人の階段を上ろうとする少女の不安定な心情を、見事な解釈と演技で表現しているのだ。
こんな大人顔負けの表現を幼少時から見せてきたから、時に誤解されることもあると明かす。「学校で『意外と愛菜ちゃんって話しやすいんだね』と言われたこともあって、結構ショックでした(笑)。私ってどういうイメージなんだろうと思うことはあります」
いや、それは彼女が何者にでもなりきれるという証拠だろう。「演じることは楽しいことなので、どんな役にも挑戦したい」。今後は大人の役どころも見てみたい。(文・小峰健二 写真・岡田晃奈)
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あしだ・まな 2004年生まれ、兵庫県出身。5歳で演じたテレビドラマ「Mother」で注目を集め、鈴木福と歌ったドラマ「マルモのおきて」の主題歌がヒット。映画出演は「告白」「パシフィック・リム」など。「星の子」は9日公開。