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【人生の贈りもの】演出家・テリー伊藤(6)「お笑い大蔵省」本音にびっくり

※本記事は2020年4月28日から2020年5月22日に朝日新聞デジタルで公開された連載を再編集しています。

過去を振り返ることはあまり好きじゃないんです。でも1990年代は面白かったなあ。「コンプライアンス」なんて言葉も聞きませんでしたよ。

《96年にはベストセラーとなった『お笑い大蔵省極秘情報』(飛鳥新社)を出した。大蔵省(現財務省)に勤めるエリート官僚の本音を、匿名を条件に対談形式で浮き彫りにした》

「官僚の中の官僚」と呼ばれる彼らが、霞が関の階級社会の中でどんな行動をしているのか興味があったんです。取材は平日以外の日。だいたいは東京都内でした。食事や休憩などを挟んで、1人平均9時間くらいのインタビューでしたでしょうか。

「そんなことまでしゃべっていいの? テープ回っているよ」

こちらが逆に、心配してしまうことも何度もありましたね。一番驚いたのは彼らに迷いがないこと。「間違ったことを俺はひとつもしていない」と言うのです。そう言い切るほどの彼らの自信は、圧倒的です。官僚システムに忠実に従っている限り、自分は安泰だと思っているのでしょう。「ヨッ! さすが、超エリート」と声を掛けたくなりましたね。

あの本を読んで激怒する人がいました。「痛快だ」「日本の将来に絶望した」と言う人もいました。いずれにしても、中央官僚の価値観が少しだけでも分かるのではないでしょうか。地位や名誉を手にしようと懸命な人には、夕日の美しさや肌をなでる潮風の心地よさはわかりにくいのですね。

《決して笑えない現実である。日本の社会は相変わらず中央志向が強い》

学歴や派閥、仲間意識も大きい。全く実力がないのに「○○さんの下で働いたこと」がどうしてか評価される。記者さんの周りにも、そんなおかしなことがまかり通っているんじゃありませんか。上司や組織に迎合する姿は滑稽ですよ。でもそれが人間なのかな。

隣人だと困る人ほどテレビ向き

《超難解政治小説とうたった『永田町無頼伝』(朝日新聞社)を1998年に出した。自民、社民、さきがけの3党による「自社さ体制」が崩壊した年である》

自民党と共産党が手を組んだら、外相に英国のサッチャー元首相を起用したらと、永田町の常識では考えられない話が出てきます。決してふざけたのではなく、真剣な提案をしたつもりです。

志のある政治家はいると思うんです。でも彼らにはユーモアのセンスがない。学校の風紀委員と同じ。超真面目だけど異性には人気がない。最新のオシャレにも音楽にも興味がないんだよなあ。というより、世の中とどこかずれているんです。永田町のしがらみやシステムにもがんじがらめになっているんだよなあ。

《テレビで怒っている姿を昔はよく見た。だが実際のテリーはとても穏やかだ》

あれは、公的な立場にいる人の不正や不実、不祥事に対する怒りです。私はいま、テレビ番組などの制作会社の社長という立場でもありますが、社員を叱ったことはないんです。叱るよりも、その人の良さをどうやって引き出せばいいのかを考える。

以前はこんなことをよく聞きましたよ。「おまえが一晩中、熱中できることを言ってみろ」と。プラモデル作りでもいい。音楽でもいい。カレーでもいい。何か一つでもあれば、それがいつか実を結び、番組になると思っています。失敗しても次にチャンスが訪れるかもしれない。実際、そうやってヒット番組を作った人が私の会社にはいます。

《その人の個性を引き出すということなのだろう。たしかにテリーが制作した番組に出てくる人は癖はあるが、個性的である》

隣に引っ越してきてほしくない人ほどテレビに出せば面白い番組になる。テレビというのは不思議な世界で、違和感が魅力となって伝わるんです。見せ方次第なんですよ。

自分のダメな部分こそ笑いに

「天才ディレクター」とか「天才プロデューサー」とか言われることがあります。自分から名乗ったのがきっかけだったんです。いろいろな番組が大ヒットし、本もベストセラー。40代になって取材を受ける機会が多くなったのです。「肩書は何にしましょうか?」、そう聞かれたので「天才ディレクターにして下さい」。「それは面白い。アハハ」とみんな笑っていたのです。何誌かが「天才」という言葉を使っているうちに「天才ディレクターのテリー伊藤」が定着したのです。

《「自己演出の天才」と言っていいだろう。だが、真面目な人であればあるほど自分の殻を壊せないのではないか》

でも、気ばかりを使って空気を読んで行動するなんてもったいないですよ。宣伝がましく申し訳ないのですが、疲れたときは僕の出ている動画投稿サイト「ユーチューブ」でも見て下さい。70歳のいい年をしたオッサンが馬鹿なことやっているって笑って下さい。

そうそう。年を重ねてきたら、ほろりと涙を流せる男になりたいと思うようになりました。道端に咲いている花を見て「ああきれいだな」と思い、桜が散っていく様を見て、時の移ろいを感じる。そんな感じですね。

男らしさの象徴として、幕末の動乱期に「新選組副長」として生き、壮絶な最期を遂げた土方歳三の名前を挙げる人がいます。「カッコいいなあ」と憧れる人も多いでしょう。でも年をとれば肉体は衰える。収入も少なくなる。だんだん弱くなる一方です。

私はそんな弱さを実感しつつ生きたい。自分のダメな部分を笑いにしていきたいなあ。あっ?この話、最初にしたかな。

《何歳まで生きたいか? 愚直な質問をぶつけた》

102歳まで。数字に特に意味はありません。「あいつ、ついにくたばったか」と思われるまで生き抜き、世の中を楽しんでやろうと思っています。(聞き手 編集委員・小泉信一)



てりー・いとう 1949年、東京・築地生まれ。本名伊藤輝夫(てるお)。日大卒。「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」「ねるとん紅鯨団」など数々の人気テレビ番組を手がけた。著書に『お笑い北朝鮮』『お笑い大蔵省極秘情報』など多数。

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