ビールの個性は「ホップ」から 苦みや香り、泡にも影響
ビールがおいしい季節です。新発売の缶ビールや種類のそろったクラフトビールの店で、よく強調されるのが「ホップ」。種類や特定の産地を前面に出した商品も目にします。でもそもそも、ホップって何でしょう?
ホップはアサ科の多年草の植物。朝顔のようにつるが伸びて成長し、収穫期には5~6メートルほどの高さに達します。雄と雌が別株の植物で、ビールに使われるのは受粉前の雌株にできる松ぼっくりのような「球花」。大人の親指大ほどの大きさです。半分に割ってみると、中に黄色い花粉のようなものが花びら状の根元に詰まっています。これが「ルプリン」で、大切な役割を果たす部分です。独特の臭いがあります。
サッポロビールでホップの研究や調達を30年以上手がける須田成志さん(52)は「ホップはほんの少しの量で、ビール全体の味を劇的に変えられる原料。研究していて飽きません」と話します。同社を代表する銘柄「黒ラベル」を例にとれば、350ミリリットル缶あたりのホップの量は3~5個程度。割合にして0・1~0・2%ほどだそうです。ほんの少しの量ですが、苦みや香りのほか、泡持ちやにごりの無さにも影響すると言います。
ホップは国内では毎年8~9月ごろ収穫を迎えると、つるごと刈り取られます。機械や手作業で球花だけを選別し、60度前後で半日ほど乾燥させます。水分が5~6%になるまで乾いたら、球花全体を粉砕。粉末のままだと酸化しやすく、香りや味が落ちるので、粉末を固めたペレットにしてビール工場へ運びます。
ビールの製造では、大麦から作った「麦汁」がベースになります。濾過(ろか)された麦汁を煮沸する際に、ホップを入れます。ホップの中に含まれる「フムロン」という物質に熱が加わることで苦み成分が生まれます。煮沸の最初の段階からホップを加え、しっかり苦みをつける「ケトルホッピング」や、最後の段階で加えて香りを残す「レイトホッピング」などの異なる工法があり、加える量なども苦みや香りの強弱につながるため、昔から醸造所ごとの「秘伝のレシピ」があると言います。
ホップはどのくらいの品種があるのでしょうか? 農林水産省のデータベースによると、国内で公表されている品種は24品種。実際にビールの原材料として栽培されているのは、世界では約80種、国内では5~6種だそうです。苦みが強くて経済性がよい「ビターホップ」に対し、特徴的な香りを持つものは「アロマホップ」「フレーバーホップ」と呼ばれます。これらのホップを使い分けて、個性あるビールを造ります。
ビールにホップを使うようになったのは8~9世紀ごろとみられ、それよりも前はグルートというハーブの一種が代用されていました。1516年にドイツのバイエルンの法律で、「ビールは水・大麦・ホップのみを原料とする」と明記されたことで、欠かせないものになりました。
日本では、サッポロビールの前身である開拓使麦酒醸造所が1877年にホップの試験栽培を札幌で開始。1881年には100%道内産の原料を使ったビールの製造を始めたそうです。
いま、国内のホップの栽培地は北海道と東北地方が中心です。東北地方では、夏の冷害対策からホップ栽培が広がった歴史がありますが、最近では猛暑などで不作になる年も増えているそうです。須田さんは「10年後の産地がどうなるかを想像して、品種開発にあたらないとなりません」と話します。(川原千夏子)
もしや万能なのかも?
ビール以外に主だった使い道がないホップですが、古くは薬草として使われたとの記録もあります。現代でも効能について多くの研究発表があり、花粉症、白髪、前立腺がん、更年期障害、アルツハイマー、アレルギー……と、もしや万能かもと思うほど。でも、ビールで健康に……なんて期待せず、お酒は適量に。