「履歴書」に溶け込んで 「先生、私の隣に座っていただけませんか?」に出演、奈緒
5週の間に出演作4本の公開が続く。いずれも準主役。みな違う空気をまとう。「昨年来、コロナ禍でエンターテインメントがどうなるのかとても不安な時期がありました。それを思うと、皆さんに作品を無事お届けできてすごく幸せです」
先陣を切る「先生、私の隣に座っていただけませんか?」で演じるのは、マンガ編集者の千佳。売れっ子の佐和子(黒木華)を担当し、佐和子の夫・俊夫(柄本佑)と不倫関係にある。佐和子の新作のネーム(構成を練る下書き)を盗み見た俊夫は、自分たちの不倫そっくりの場面を見つけ「もしかしてバレてる?」と驚愕(きょうがく)。ただの創作なのか真意がつかめず身もだえする俊夫に対し、千佳は目を輝かせ「リアルで面白い! 連載いけますね」。
「普通、千佳の立場ならその言葉は出ないけど、彼女は面白さが最優先。張り詰めた夫婦の心理戦の真ん中を猪突(ちょとつ)猛進する。全く悪びれず、自由なところが強さです」
謎めいた佐和子、肝の据わった千佳に対し、俊夫は小心翼々。独り相撲で勝手にずっこけ、慌てて取り繕う。「なぜか憎めない。完成した映画を見ると、ダメなことばっかりしてる俊夫を『頑張れ!』って応援したくなるんですよね」
17日公開の「君は永遠にそいつらより若い」では、心の傷を抱えた大学生。23日公開の「マイ・ダディ」では、夫と娘への愛ゆえに「過去」に苦しむ純真な女性。10月8日公開の「草の響き」では、心を病んだ主人公を献身的に支える妻を演じる。「お話も役柄も雰囲気も全く違う。自分を試すような感覚です」
毎回、演じる人物の「履歴書」を作るという。それが、自在に役に溶け込む秘訣(ひけつ)だろうか。「映画に出始めたころ監督に履歴書を渡され、こういう掘り下げ方は面白いなと思って。それから、自分であれこれ想像して書いています」
では千佳は? 「他の仕事もできるタイプだけど、マンガが大好きで一時期は自分もマンガ家を目指していた。だから作品と作り手への強い敬愛がある。そう考えました」
俳優・奈緒の履歴書も書き込みが充実。これからもっと増えていきそうだ。
(文・小原篤 写真・伊ケ崎忍)