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若きアイデアで、いい湯だな♪ 1人用サウナ・喫茶スペース・浴育イベント 銭湯引き継ぎ、利用者を開拓

※本記事は2021年12月11日に朝日新聞デジタルで掲載されました。

利用者の減少で年々姿を消している町の銭湯。コロナ禍での外出自粛が苦境に拍車をかける中、リニューアルが相次ぐ東京都内の銭湯では、新たな利用者を開拓する動きもある。ピンチをチャンスに変えようと工夫を重ねるのは、経営を引き継いだ「銭湯愛」の深い若者たちだ。

天井まで伸びる巨大本棚が目を引くロビーで、放課後の女子小学生たちがおしゃべりしながらマンガを読んでいる。番台では高齢の男性が新聞を片手に湯上がりのビールを注文する――。東京浴場(東京都品川区)の夕方の一コマだ。

昨年7月、廃業した銭湯などを再生するニコニコ温泉が運営を引き継ぎ、リニューアルオープンした。店長の相良政之さん(23)は「全世代に愛される銭湯をめざしている」と話す。高校卒業後、様々な銭湯を巡るうちに副業で銭湯ライターの仕事を始めた。取材で訪れた銭湯で、多くの経営者が「子どもや孫には継がせられない」と口にするのが気になった。ニコニコ温泉が経営を引き継いだ都内の別の銭湯でアルバイトを始めたことが縁で同社に転職。東京浴場のリニューアルを任された。

コロナ禍をヒントに生まれた新サービスの一つが「おこもりサウナ」だ。幅約90センチの1人用のプライベートサウナを男女の脱衣所に各1台置いた。完全予約制で並ぶことなく、密も避けられる。スマートフォンをつないで好きな音楽をかけたり、アロマオイルで香りを楽しんだりできる。利用料は1500円(入浴料込み)。「サウナブーム」の後押しもあり、遠方から利用者が訪れるようになった。

ほかにも月額4千円で本棚を借りた人が「本屋」を営める「フロナカ書店街」や焼き芋の無人販売など、10~60代のスタッフ約20人と新しい取り組みに挑戦している。売り上げはリニューアル前の3~4倍に。「大好きなお風呂を仕事にできて幸せ。自分たちの取り組みが、少しでも業界存続の手助けになれば」

東京都北区の「十条銀座商店街」近くにある十條湯は今年8月、併設する喫茶スペースをリニューアルした。改装費をクラウドファンディングで募ると、約1カ月で718人、524万円余りの寄付が集まった。

銭湯内にはカニや魚などのモチーフが多く使われていることから、リニューアルと同時に喫茶の名前を「深海」に改めた。

十條湯は昨年、関西を中心に銭湯の再生を手がけてきた「ゆとなみ社」と業務提携し、経営再建中だ。喫茶を任されているのが広瀬礼奈さん(27)。ブライダル企業を辞め、ほかの喫茶店で修業しながら働く。「銭湯も喫茶店も昔からある地域に根ざしたコミュニケーションの場。なくなってほしくない」という思いがある。リニューアル後の喫茶はインスタグラムやツイッターなどSNSでも話題となり、喫茶のみの利用客も増えたという。

メニュー数は3倍に増やしたが、一番人気は以前からある「元祖! クリームソーダ」(550円)。「パパ、これ子どもの時よく飲んだんだ」。広瀬さんは最近、5歳前後の息子を初めて銭湯に連れてきた若い父親が、湯上がりにクリームソーダを薦める姿を見かけた。「こうやって世代を超えて思い出を共有できるのが銭湯と喫茶店の良いところです」と喜ぶ。

1943年創業の金町湯(東京都葛飾区)は今年、大規模な改装工事を終えた。創業者のひ孫の山田新太郎さん(30)が会社員を辞め、銭湯を継ぐことを決めたからだ。

幼い頃、学校帰りに銭湯に来れば、両親や祖父母が必ずいた。番台でこっそりジュースを飲んだり、浴場の掃除を手伝ったり。「楽しい思い出がある」と山田さん。いまは山田さんと妻加奈さん(31)、両親の4人で営む。

改装後は家族連れの利用が増えたが、一方で「銭湯の入り方を知らない人も多い」と感じた。そこで今月23日、親子を対象とした「浴育イベント」を開催する。銭湯を貸し切りにし、マナーや文化に触れてもらう取り組みだ。「イベントで銭湯を知った子どもたちが親になってからも来てくれるかもしれない。種まきの活動は今後も続けていきたい」

■担い手養成へ講座開催 都の組合

全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会(全浴連)の加入数は今年4月1日現在、1964軒。ピーク時の1968年(1万7999軒)の10分の1近くまで減った。

銭湯の担い手を増やそうと、東京都公衆浴場業生活衛生同業組合では今年、担い手の養成講座を初めて開催した。講座は3段階で構成され、最も初期の「ステージ1」には、20~30代を中心に18人が参加。実際の銭湯で仕事を体験した。都の組合の担当者は「銭湯で働きたいという人に仕事を知ってもらい、銭湯文化を残していきたい」。来年も開催する予定だ。

「ニコニコ温泉」は東京浴場のほか、東京都昭島市や神戸市で、十條湯と業務提携する「ゆとなみ社」は、京都市や大津市、愛知県豊橋市などで銭湯などの再生や運営引き継ぎを手がけている。(小林直子)

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