水風呂のかわりに鍾乳洞でととのう 野外サウナが九州で熱い
体温を上げたり下げたりするだけなのに、なぜこんなに気持ちいいのか――。九州各地でサウナブームだ。川や鍾乳洞を水風呂として使う野外サウナも登場。自治体ぐるみの取り組みもある。
■サウナー記者が訪ねると
記者は週に1回程度、長崎市内のサウナに通う。ジョギングもヨガも三日坊主だったが、サウナだけはやみつきになった。
住まいのある長崎市の中心部から車で約40分の山中に、通年営業の屋外サウナがあると聞いて行ってみた。ミカン栽培が盛んな琴海地区の農業体験施設「清流と棚田の里」だ。地域おこし協力隊の斉藤秀男さん(30)が案内してくれた。
薪ストーブの上で加熱したストーンに水をかけると蒸気がテント内に充満し、約90度まで上がる。「サウナ室で横になる」のは多くの施設でご法度だが、テントサウナなら自由だ。
水着を着て10分ほど汗を流した後、真冬の川へ。
あまりの冷たさに「ひっっ」と声が出た。川べりのデッキチェアに身を横たえ、自分の体温で体表が解凍されるような清涼感を味わった。風に木々がそよぐ音と鳥の鳴き声が心地よい。
「清流と棚田の里」では利用の少ない秋冬の集客を見込んで2020年からテントサウナを導入し、昨年は約500人が利用した。「20~30代のグループ客が多いですが、1人で来る方もいますよ」と斉藤さん。
あちこちの屋外サウナを調べていて目に留まったのが、大分県豊後大野市の稲積水中鍾乳洞。「世界唯一」を名乗る鍾乳洞サウナだ。入り口近くのテントサウナで温まり、青くライトアップされた鍾乳洞の水にドボン。サーフボードに寝そべって、滝の流れる洞窟を探検することもできる。
支配人の青松善輔さん(46)は、サウナに紅茶の香りを使ったり、休憩用に毛布や寝袋を用意したりと、心地よい「ととのい」の研究に余念がない。
■合言葉は「地産地蒸」
同市では20年、鍾乳洞を含む五つのサウナ施設で「おんせん県いいサウナ研究所」を結成。施設の「ハシゴ」に加え、まちの飲食店とコラボして「サウナ飯」もPRしている。21年7月には市長が「サウナのまち」を宣言した。
仕掛け人は、17年に茨城県から移住し、祖母山麓(さんろく)でゲストハウス「LAMP豊後大野」を運営する高橋ケンさん(39)。市内に温泉施設がないことを逆手にとり、サウナ好きに来てもらおうと考えた。今年度の5施設の利用者は延べ3600人を見込む。地元の森林組合から間伐材をサウナの薪として提供してもらう枠組みも整え、持続可能な取り組みをめざす。
佐賀県は昨年の東京五輪でサウナの本場・フィンランド選手団の事前キャンプ地になった。3月に佐賀市で開催予定のイベント「FIN(フィン)―SAGA(サガ) ACADEMY(アカデミー)」には、テントサウナがお目見えする。
ユーザー目線でブームを盛り上げるのは、九州在住の愛好家約10人でつくるプロジェクト「九州とサウナ」。同名のウェブマガジンで老舗施設のこだわりを探るインタビュー記事や、街の表情が垣間見えるサウナルポを発信し、トークイベントなども開いてきた。
昨秋には博多阪急(福岡市)とタイアップしてイベント「わたしとサウナ」を開催し、「湯らっくす」(熊本市)などの人気施設がオリジナルグッズを販売した。2月には九州4県の施設と「レディースマンス」を企画。「ニューニシノサウナ」(鹿児島市)、「筑紫野天拝の郷」(福岡県筑紫野市)などが男性専用サウナを予約制で女性に開放する。
設立メンバーのタカハシさん=福岡市=は「九州は水のきれいさ、自然の豊かさ、施設の方々の情熱が熱い土地」と語る。「『地産地蒸』を合言葉に横のつながりを広げ、住人にサウナ習慣をもっと広げたい」(榎本瑞希)