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「やきとりの聖地」でうまい豚を味わう ここは東松山 みそダレの店

※本記事は2022年9月1日に朝日新聞デジタルで掲載されました。

現場へ! あついぞ! 埼玉④

暑い。ここは4年前、国内観測史上最高の41・1度を記録した埼玉県北部の熊谷市だ。7月上旬のこの日も38度近い。

でも生ビールはうまいだろう。そんなことを期待しながら路線バスに乗る。向かうは「やきとりの聖地」と呼ばれる東松山市。胸はドキドキ。何たって「聖地」だからね――。

地元観光協会によると、北海道の美唄市と室蘭市、福島市、愛媛県今治市、山口県長門市、福岡県久留米市とともに「日本7大やきとりのまち」だそうだ。40店舗以上もあるという。

東松山着。赤ちょうちんがあちこちで夜風に揺れていた。さすが「聖地」。「おいで、こっちにおいで」と手招きしているようにも見える。

この街を取材したことがあるエッセイスト吉田類さんは「通りすがってピンときたらその店はハズレじゃないですよ」と居酒屋本に書いていた。私も事前情報と自分のアンテナを頼りに、まずは駅近くの店から訪ねることに。

串に刺すが、ひらがなで「やきとり」。鶏でなく、独特の歯ごたえがある豚の頭部カシラ肉を使う。白みそをベースにニンニクや唐辛子などのスパイスをブレンドした「みそダレ」を塗って食べるのが東松山流だ。

ほおばった瞬間、肉汁がじゅわーとあふれ出た。肉の間に挟まれたネギとの相性もいい。一度味わうとやみつきになりそうである。「遠方から来る客も多い」というのも納得できる。

それにしても東松山ではどうして豚肉のやきとりが盛んになったのだろう。関係者によると、戦後の食糧難時代、県の奨励で養豚が盛んになったことがきっかけという。「さばいた肉の残りを『もったいない』と引き取り、屋台で焼いて売ったのが始まりだと聞いています」

創業53年の「とくのや」(箭弓(やきゅう)町1丁目)の主人・韓成洙(かんせいしゅ)さん(73)が教えてくれた。同店のやきとりは、みその辛みが利いており、パンチ力抜群。実にビールに合う。昼間とはちょっと違う汗が額を伝う。

こんなにうまいやきとりを食べることができる埼玉県民は幸せだなあ――。そう思いながら「でもどうして埼玉のことを『ダサイたま』というのだろう?」と考えてしまった。

持ってきた本を開くと「しょせん、なにをしても東京には負ける。だって埼玉だもん」と南関東の人から言われたことが語源だと書いてある。「だって埼玉」が転じて「だ埼」、そして「ダサイ」になったという説である。一方で「ダメな埼玉」という説もあるらしい。

でもねえ、総人口は約734万人。東京、神奈川、大阪、愛知に次いで全国第5位。不動産情報サイト「スーモ」を運営するリクルートの「住みたい街(駅)ランキング首都圏版」でも、大宮3位、浦和5位(いずれもさいたま市)と埼玉勢の活躍が目立つ。「東京へのアクセスは抜群。自然も豊か」と店にいる常連客も胸を張る。

ウォーキングの祭典・日本スリーデーマーチの開催地としても知られる東松山市。歩けばいろいろな店や人、情報に出会うことができる。蔵造りの町並みで「小江戸」として知られる川越市も観光客が懐かしい風情を楽しんでいる。

いろいろな表情がある埼玉。私も、もう少しまちを歩こう。そういえばディープな飲み屋街がまだまだたくさんあるという。さあ、もう1軒!
(編集委員・小泉信一)

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