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小田急・世田谷代田駅、人気ドラマの「聖地」に 「silent」プロデューサーの狙いは

※本記事は2022年12月7日に朝日新聞デジタルで掲載されました。

東京・世田谷にある小田急線の小さな駅にいま、多くの人が押し寄せている。人気の下北沢駅の隣で、乗降者数は10分の1以下。各駅停車しか止まらない世田谷代田(だいた)駅だ。放送中の人気ドラマ「silent」で登場したことがきっかけ。ブームの裏には小田急電鉄の戦略と、ドラマプロデューサーの狙いがあった。

新宿駅から13分、世田谷代田駅は閑静な住宅街にある。改札を出ると、ジョギングや犬の散歩をする地元住民の姿がみえる。遠くには山も見え、大都会にいることを一瞬忘れてしまいそうだ。

「このベンチがイヤホンを拾ってあげるシーンのところだ!」。平日の午前中にもかかわらず、改札前のベンチに人だかりができていた。若い女性から子供連れ、カップルら。地面に落ちたイヤホンを拾うなど、ポーズを決めて写真を撮っている。

このベンチは、フジテレビ系列のドラマ「silent」で、登場人物の2人が再会するシーンが撮影された場所だ。

「silent」は、川口春奈さん演じる主人公の「青羽紬(つむぎ)」と、目黒蓮さん(Snow Man)演じる「佐倉想」のラブストーリー。想は聴力を失ったという想定で、「音のない世界」で2人が再会する物語は、ツイッターで世界トレンド1位を獲得した。

ドラマでは駅のホームや改札、橋や階段といった多くが世田谷代田駅で撮影された。休日は、「聖地巡礼」に訪れるファンであふれかえる。

  • 小田急線の「地味な駅」が人気ドラマ「silent」に登場したことで注目を集めています。記事後半では、なぜ世田谷代田駅が物語の舞台になったのか、小田急電鉄やフジテレビの村瀬健プロデューサーが明かしています。紬と想が再会したベンチなど、主なロケ地の紹介もあります。

都内に住む会社員の逢坂美穂さん(26)は11月、初めて世田谷代田を訪れた。ドラマを第1話から繰り返し見直している。「電車を降りた瞬間、言葉にならなくて」。一緒に来た蝦名麻衣さん(27)は「ロケ地をめぐってドラマの世界観に浸っています」と笑う。

繰り返し訪れる人もいる。この日が2回目という女性(31)は「あの場所に行きたいと思わせるくらい、ドラマが魅力的。新しい場面が出たら、また世田谷代田に来たい」と言う。

小田急電鉄によると、世田谷代田の1日の平均乗降人数(2021年度)は約8千人。70ある沿線の駅の中で63番目の地味な駅だ。隣の下北沢駅は約9万6千人。サブカルチャー文化で有名な下北沢は若者が多く集う場所だが、お隣駅の知名度はそれに比べて都内でも低い。

乗降人数が増加、駅前のカフェには行列

ドラマの放送が始まった10月、巡礼効果もあってか、定期券以外で利用した世田谷代田駅の1日の平均乗降人数は前月から13.3%増加した。小田急の広報は「代田駅が目的地になるなんて。ドラマ効果は想像以上」と話す。

閑静な地元も驚く。

駅前にあるカフェ「ネリネコーヒー」では最近、週末は開店前に行列ができることもあるという。店員の橋本光太郎さん(21)は「ドラマの影響は大きいんだなと感じます」と話す。

不動産・住宅情報サイト「ライフルホームズ」が賃貸物件ページの閲覧数を調べたところ、「世田谷代田駅」がドラマ放送前から1.2倍に増えたという。

ライフルホームズ総研チーフアナリストの中山登志朗さんは、「世田谷代田は下北沢に徒歩圏内で利便性が良いにもかかわらず、賃貸というより代々住む持ち家がほとんどで、若い人のイメージはあまりないはずだが」。同社の「借りて住みたい街ランキング」で昨年は777位だったが、ドラマが始まった今年10月から1カ月の集計では50位ほど順位を上げたという。

なぜ代田が選ばれたのか

ドラマ「silent」の撮影には小田急電鉄が協力した。実はこれまで、ドラマや映画のロケ撮影をほとんど断っていたというが、今回はなぜ――。

小田急は4月、車両や駅を撮影に貸し出すロケーションサービスを新たに始めた。コロナ禍の中、本業とは別に資産を活用して収益を生み出す狙いだ。新たな部署を立ち上げ、スムーズな対応をうたう。

生活事業推進部の斉藤庸介課長代理は「沿線には都心から住宅街、箱根まで幅広い場所があるのが当社の強み。沿線が登場することでイメージアップにつながれば」と話す。新事業でのドラマ放送の第1弾が「silent」だった。

なぜ世田谷代田が舞台になったのか。

フジテレビの村瀬健プロデューサーは「物語を構築していく中で、どのあたりに紬や想が住んでいるのかを考えていった時に、下北沢周辺が良い、となっていた」と話す。

ロケーションが良くてきれいで、乗降客が意外と少ないこと。そんな理由から小田急が提案した一つが世田谷代田だった。村瀬さんは「見に行ったらすばらしかった。第1話のラストで描いていたイメージ通りの世界観があり、こんなにぴったりな場所があったのか、と」と振り返る。

村瀬さんは「歩いて下北沢にいける距離感や、都心からの距離感が絶妙。住宅街だけでもなく、かといって都会すぎると登場人物たちが住まないような空気になってしまう。世田谷代田は位置も街並みもちょうどよかった」と話す。

村瀬さん自身、「木更津キャッツアイ」を見て千葉・木更津を訪れたり、「北の国から」が好きで北海道・富良野を巡ったりした経験があるという。「その街に行けば登場人物が住んでいて、彼女たちに会えるようなドラマにしたいと思っていた。この街が、この駅が『silentの街だ』と思ってもらえていることは、作り手としてこんなにうれしいことはない」

ドラマの最終回は22日の予定だ。(野田枝里子)

聖地巡礼

作品の舞台になった場所を「聖地」ととらえ、ファンが訪問することを「聖地巡礼」と呼ぶ。ファンが映画やドラマのロケ地を訪れるのは昔からあるが、最近では「君の名は。」などアニメの聖地巡礼も人気を集めている。聖地巡礼を観光資源として活用する自治体も多い。

舞台が話題になった主な作品

【作品名】  【主な舞台】

北の国から  富良野(北海道)
耳をすませば  聖蹟桜ケ丘(東京)
池袋ウエストゲートパーク  池袋(東京)
木更津キャッツアイ  木更津(千葉)
らき☆すた  久喜(埼玉)
あまちゃん  久慈(岩手)
君の名は。  飛驒(岐阜)
いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう  雪が谷大塚(東京)
花束みたいな恋をした  調布(東京)
最愛  白川郷(岐阜)
silent  世田谷代田(東京)

「silent」の主なロケ地

世田谷代田駅2番ホーム
第1話で紬が想を見かけたシーン

同駅改札口
想にもう一度会うために、紬が壁に寄りかかっていた

同駅前のベンチ
想が座っていた。紬が落としたイヤホンを想が拾って再会した

代田富士見橋
追いかけてきた紬に、想が手話で自分の思いを告白したシーン。橋は駅から見える徒歩数十秒の場所にある

階段付近
紬と想の橋の上でのやりとりのあと、想がしゃがみこんで泣いた場所

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