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情けない男、しなやかに 「グッドバイ 噓からはじまる人生喜劇」に主演、大泉洋

※本記事は2020年2月21日に朝日新聞デジタルで掲載されました。

「グッドバイ 嘘(うそ)からはじまる人生喜劇」

スーツにハット、丸めがねのダンディーな姿がよく似合う。だが、この実直そうな男を彼が演じると、八の字眉毛で真剣に悩んでいる様子だけで、すでに何だか面白い。

悩みも悩みだ。文芸誌編集長の田島は終戦後、妻子とまっとうに生きるため、何人もいる愛人たちとどう別れようかと頭を悩ませる。文士・連行(松重豊)の入れ知恵で、闇市で暗躍する美人のキヌ子(小池栄子)を偽の妻にし、一緒に愛人を訪ね歩くことに……。

気弱で情けない→女たちがほっとけない→気づけば愛人が何人も、ということらしい。ただ、「モテる役だと思ってふたを開けたら、あまりそこは描かれていなくて、どんどん女性と別れていく。どちらかというと僕が『別れられていく』シーンも多いんですよね」と笑う。「俺には女の素晴らしいところ以外、目に入らないんだよっ!」とのたまい、愛人それぞれに未練たらたらな姿は、不義理なのに誠実そうにも見え、おかしみとかなしさの両方をはらむ。

太宰治の未完の遺作を、ケラリーノ・サンドロヴィッチが独自の視点で完成させた舞台が原作だ。優柔不断な田島と、がめついパワフルなキヌ子の掛け合いがたまらない喜劇だが、太宰を意識しながら演じたという。「太宰自身、どこか自分を投影して、コミカルに書きたかったのかなと。田島も、墜落願望というか、暗い一面もある人かなと思って。ふとした、セリフのない場面ではそんな気持ちもあったかもしれない」

もう1人、思い浮かべていた男がいる。「軽やかに、しなやかに演じられるといいなあと思ってたね。太宰さんを意識しながらも、お芝居でいうと、市川雷蔵さんが演じるモテ男、『好色一代男』みたいなイメージがあったと思う。情けないけど、ほっとけないというようなね」

人をひきつける愛されキャラという意味では、大泉も田島と重なるのではないか。自分と似ているところはある? 「この人、連行さんに言われたことをほいほいやっちゃう。私も何かと人に相談しがちだったり、頼ったりすることが多いので、人に言われたことをまずやってしまうのは似てるんじゃないかな」

(文・神宮桃子 写真・山本倫子)



おおいずみ・よう 1973年生まれ、北海道出身。演劇ユニット「チームナックス」メンバー。主な出演映画に「探偵はBARにいる」「駆込み女と駆出し男」「こんな夜更けにバナナかよ」。「グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇」は公開中。

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