Presented by サッポロビール株式会社

【人生の贈りもの】役者・樹木希林(最終回) キラキラキラーッな山崎さんと

※本記事は2018年5月8日から2018年5月25日に朝日新聞デジタルで公開された連載を再編集しています。

──今年、樹木さんが重要な役で出演する映画が3本公開される。「モリのいる場所」は画家の熊谷守一の物語だ──。

守一を演じた山崎努さんは文学座の先輩だけど、今回が初共演なんです。1961年に私が入った時、山崎さんはキラキラキラーッと輝いてました。話をするどころか、そばに寄れなかった。だから出演依頼があった時は「はい!やります」と即決でした。

山崎さんはいろいろ注文したり、怒ったりしてくれるのかと思っていたけど、若い沖田(修一)監督の言うことを「あ、そうだね」と全部聞いていました。文学座の大先輩の杉村春子さんも、監督に盾突くところを見たことがなかった。りっぱな役者はそうあるべきだと思うわね。私は生涯、見習えなかったけれど。

山崎さんと向き合って芝居できる日が来るとは思ってもみませんでした。去年の暑い夏のさなか、森のような庭のある家を舞台に、至福の時間を過ごすことが出来たわね。

──樹木さんが演じるのは守一の妻秀子。ひょうひょうと生きているところが、樹木さん本人をほうふつとさせる──。

いえ。私は底意地の悪い人間だけどね、秀子さんは性格が悪くないのよ。守一が文化勲章を断る場面があるんだけど、私なら「受けたらどうですか、いくらかもらえるんでしょ」と絶対言ってるわね。

私は「モリのいる場所」がとっても好きだけど、唯一、大丈夫かなと心配なのは、映画が破けていないこと。つまり、役者が自らの分をわきまえていて行儀がいいのよ。台本を読み込み、収まるべきところに収まっている。映画ってね、「嫌だな、あの人」と皆が思うような、ずうずうしい演技をする人が交じることで、思いがけない面白さが出ることがあるのよ。

──是枝裕和監督の「万引き家族」では“家族”に年金を当てにされる貧しい老人、大森立嗣監督の「日日是好日」では、街で茶道を教える上品な女性を演じている──。

全くタイプの異なる3本の映画に出してもらってね、この1年はとても幸せでした。

人生、上出来でございました

──今年1月で樹木さんは75歳になった──。

後期高齢者の仲間入りね。ここまで十分生かしてもらったなあ、って思います。私、自分の身体は自分のものだと考えていました。とんでもない。この身体は借りものなんですよね。最近、そう思うようになりました。借りものの身体の中に、こういう性格のものが入っているんだ、と。

ところが、若い頃からずっと、わがもの顔で使ってきましたからね。ぞんざいに扱いすぎました。今ごろになって「ごめんなさいね」と謝っても、もう遅いわね。

「人間いつかは死ぬ」とよく言われます。これだけ長くがんと付き合っているとね、「いつかは死ぬ」じゃなくて「いつでも死ぬ」という感覚なんです。でも、借りていたものをお返しするんだと考えると、すごく楽ですよね。

人から見ると、それを「覚悟」と言うのかもしれませんね。でも「覚悟」が決まっているということでもないの。だからといって、グラグラしているわけじゃない。現在まで、それなりに生きてきたように、それなりに死んでいくんだなって感じでしょうか。

夫の内田裕也もね、大変な思いもしたけれど、ああいう人とかかわったというのは、偶然じゃないという気がしてきたの。ほとんど一緒にいなかったけどね。でも縁があったんだろうなあ、と。だから内田には「面白かったわ」と伝えているの。

日本映画界にも、これを描きたいという意思をしっかり持った若い人が出てきましたね。すごくいいんじゃない? 日本って、東洋と西洋の思想をうまく料理出来るお国柄だから、すごい映画が出来ると思う。監督も役者も、もう少し層が厚くなってくると、とても楽しみだわね。私はもうお墓に入っているけどね。

いまなら自信を持ってこう言えます。今日までの人生、上出来でございました。これにて、おいとまいたします。(聞き手 編集委員・石飛徳樹)

<<樹木希林さんの連載を最初から読む>>

この記事をシェア

facebookにシェア
twitterにシェア
tLINEにシェア

SHARE

facebookにシェア
twitterにシェア
tLINEにシェア

オススメ記事
RECOMMENDED

↑TOPへ