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日本伝統工芸展 大阪府内で入賞の2人に聞く

※本記事は2020年9月15日に朝日新聞デジタルで掲載されました。

国内最大規模の伝統工芸の公募展「第67回日本伝統工芸展」(日本工芸会、朝日新聞社など主催)。およそ1300の応募の中から16人だけの栄えある入賞者に、府内から2人が選ばれた。日本工芸会奨励賞と同会新人賞を受けた2人の作家に、制作にかける思いを聞いた。(松尾由紀)



日本工芸会奨励賞に輝いた「截金(きりかね)飾筥(かざりばこ)『滔滔(とうとう)と』」は、金箔(きんぱく)やプラチナ箔を手作りの竹刀で細く切り、のりで貼り付ける截金の技法で文様を描いた。1992年から入選を重ねた末、初入賞した中村佳睦(けいぼく)さん(67)=大阪市旭区=は「これまでより地味な作品。どう評価されるか不安だったから、受賞はなかなか信じられなかった」と笑う。

截金は仏像や仏画の装飾に使われる一方、工芸品としても制作されてきた。中村さんは40年前にカルチャーセンターで仏像彫刻を始め、翌年には仏画と截金にも取り組んだ。

91年に仏師の夫と「あさば仏教美術工房」を設立、截金を施した仏画と工芸品の制作を続けた。両者の違いを「仏様に寄り添う『従』の存在と、私の思いを強く反映できる『主』の存在」と表現する。

受賞作は自宅近くの淀川の流れがモチーフだ。コロナ禍で気持ちがふさぎこみ、従来の華やかな図柄は浮かばない。焦る気持ちを抱えながら見た川はいつも通りに淡々としていて、癒やされた。そんな気持ちを込めた。

「仏教美術だけではなく工芸も手がけることで、ほかの分野の作家の方たちと知り合える。そこでもらった刺激を生かしながら、まだ見ていない新たな作品を生み出していきたい」

作品を手に「削り方一つで表情が変わる。何年やっても奥深さを感じます」と切子の魅力を話す安田公子さん=2020年9月2日午後2時28分、大阪市天王寺区、松尾由紀撮影



ガラスの表面に切り込みを入れて、さまざまな文様を生み出す切子(きりこ)。直径30センチ、高さ12センチと大ぶりな「被(きせ)硝子(がらす)切子鉢『糸遊(いとゆう)』」で日本工芸会新人賞を受けた安田公子さん(44)=大阪市城東区=は「良い物ができた、と納得していた作品。それだけに、受賞がうれしい」と喜びを語る。

大学卒業後、企業に勤めていた時に、習い事として切子に出会った。もともと手作業は好きで、すぐに「一生の趣味を見つけた」と感じた。数年後には切子工房で働くようになり、2017年には同市天王寺区に自らの工房も構えた。

ガラスの器を種類の違う工具で削り、磨く。ざらざらしていたものが、つるつるになり、最後にはキラキラと光る。「本当に光るの?と思うものがぴかっと輝く。何度やっても楽しく、とりこになりました」

日本伝統工芸展の出品は毎年夏が締め切り。今年は制作期間がコロナ禍に当たり、通常の仕事が減っていた。「時間がある今なら、大きな作品に集中できる」と挑んだ受賞作は、細やかな菊つなぎの柄を一月半かけて全面に彫り込んだ。鉢底の群青から透明な上部まで、グラデーションで青が連なる色みも印象的だ。

「自分の看板になる作品ができた。受賞を励みに、さらに良いものを作り続けたい」



第67回日本伝統工芸展の京都展は京都市下京区の京都産業会館ホール(京都経済センター2階)で10月14~16日に開かれる。中村さんと安田さんの受賞作も展示される予定。入場無料。

例年は大阪展も開かれていたが、新型コロナウイルスの影響で中止された。

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