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【人生の贈りもの】演出家・テリー伊藤(5) 北朝鮮を企画に、ノリで現地へ

※本記事は2020年4月28日から2020年5月22日に朝日新聞デジタルで公開された連載を再編集しています。

「卒業」って映画、覚えていますか。ダスティン・ホフマン演じる主人公が花嫁を略奪する場面で有名ですが、私は「残された男はどうなるんだ」「親戚に何て言うんだろう」と考え込んでしまうタイプなのです。ちょっと視点が違うんですね。

《北朝鮮にずっと関心を持っていた。厚いベールに包まれた国。「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)」といわれていた》

いまの金正恩(キムジョンウン)のお父さん、金正日(キムジョンイル)に焦点をあてたテレビ番組をやりたかったんです。金正日は多彩な趣味を持っていて、歌も作るし、詩も作る。映画も撮っていました。まさに総合プロデューサーです。企画書も書いたんですが、どの局からも「そんなもの、できるわけないだろ!」の一言。出版社も十数社回ったかなあ。でも断られました。

そうしたら、ある出版社が本を出してくれることになったのです。なら、自分の目で北朝鮮の現実を見てみようということに。それも政治評論家的な難しい視点ではなく、街を歩いて「あの女性はいい!」というようなノリで。

《1993年、北朝鮮の国営旅行社の代理店が催した観光ツアーに参加した。名古屋から平壌に向かう特別チャーター便に編集者ら計4人で乗った》

旅費は30万円ほどでしたね。飛行機は旧ソ連が開発した「イリューシン」でした。ですが、着陸の20〜30分ほど前、日本語で機内放送が突然流れたのです。

「当機は都合により、平壌に着陸せず元山(ウォンサン)空港に着陸することになりました」

機内は「どうなるんだ」と不安な空気に包まれました。でも私は「やってくれるじゃん!」と笑ってしまいました。異国、しかも北朝鮮への旅です。予期せぬハプニングはむしろ大歓迎でした。

平壌のバー、ホステスとパチリ

北朝鮮への旅行は10年以上前から計画していたのです。関連する本はほとんど読みましたし、韓国系の新聞を通じてあらゆる情報を網羅するようにしました。

1993年、私たち日本人観光ツアー客を乗せた旧ソ連製のイリューシン機は無事、北朝鮮の東部にある元山(ウォンサン)空港に着きました。「ああ、ここが北朝鮮か」と感慨に浸っていたら、機内に軍服を着た兵士が金属探知機のようなものを持ってドヤドヤと入ってきます。手荷物検査でした。そんなときなのに私はピースサインをしながら兵士とツーショット写真を撮ったんです。あのときの彼らのこわばった笑顔は忘れられません。

《バスで平壌に。ガイドで通訳役の男性がアリランを歌った》

ようやくホテルに着いたのですが、廊下は節電のため真っ暗。日が落ち、夜の街を見てみようと外に出たのですが、労働党員の通訳が監視役として付いてきました。ホテル内のバーで働くホステスさんと肩を組むのは駄目でしたが、一緒に写真を撮るのはOKでした。自民党の金丸信氏を団長とする訪問団が北朝鮮を訪れてから日本の歌謡曲が解禁になったといいます。なぜか「青い山脈」が人気なのだそうです。

4泊5日の滞在中、音楽や美術、体育などを子どもたちが学ぶ教室を訪問したり、北緯38度の非武装地帯にも行ったりしました。「よど号」をハイジャックし、北朝鮮に渡った元赤軍派のメンバーにも短い時間でしたが、会うことができました。

《「面白い」と思ったことを行動に移し、社会を驚かせてきた》

でも、なんでもあり、の世界で生きていると、ニューヨーク発のような最新情報よりも知らない世界の方がよほど面白く感じられるときがあるのです。北朝鮮の旅でそのことを再認識しました。(聞き手 編集委員・小泉信一)



てりー・いとう 1949年、東京・築地生まれ。本名伊藤輝夫(てるお)。日大卒。「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」「ねるとん紅鯨団」など数々の人気テレビ番組を手がけた。著書に『お笑い北朝鮮』『お笑い大蔵省極秘情報』など多数。

<<テリー伊藤さんの連載・第六回はこちら>>

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