不要不急の「文化」、心の必需品 デザイナー・研壁宣男
「高級衣料品は生活必需品ではない」。前回の緊急事態宣言にともなう休業要請をめぐり、東京都の小池百合子知事は5月、百貨店側にこう念押しして売り場を閉めるよう求めた。こうしたなか、婦人服ブランド「サポートサーフェス」を手がけるファッションデザイナーの研壁(すりかべ)宣男は、顧客らに送った新作カタログに、こんな手紙を同封した。
「東京の知事の発言には驚きました。私たちが製造しているのは、そのいわゆる高級衣料品に該当するものと思われます。『不要不急の仕事』に従事していることに誇りを感じています」
思いを聞いた。
生活必需品じゃないと言われたときは、おかしいと思いましたし、文化を否定されているような気がしました。サポートサーフェスの服は「メイド・イン・ジャパン」です。高価なものでワンピースは10万円前後、スカートが6、7万円ほど。工賃の高い日本で、各分野のプロフェッショナルが手間ひまかけて企画・製造しています。高価なのは理由があります。
安価な服が生活必需品だと言うなら、ファストファッションが必需品で、職人がつくるものは必需品じゃないということになります。洋服に限らず、高いものを買わなくとも100円ショップの商品で十分だと言っているようなものです。日本のものづくりの文化そのものを否定されているようで、腹立たしく感じました。
私は日本で服をつくることにより、微力ではありますが、減少傾向にある製造業や縫製職人の力になりたいという気持ちが強くあります。眠りかけている職人の力を引き出すことも、デザイナーの大事な仕事だと感じています。海外で大量生産された安価な商品があふれることは、熟練の職人の仕事の衰退も意味します。知事の発言により、政府のクールジャパンなどの日本発の文化やファッションのPRが、表面的なポーズにも感じられてしまいます。
人はものを買うときに、それがもたらす気分も一緒に買っているんだと思います。服だけではなくて、旅行とか演劇とか、映画とかもそう。そして、その気分が生活を支えている。それを不要不急だから我慢しなさいって言われたところで、我慢できるのって一瞬です。目的が不明瞭な我慢は、何週間も何カ月も続けられません。
考えてみたら、心を豊かにするありとあらゆるものは不要不急ですね。不要不急のものにはお金をかけていきたいですね。不要不急の「文化」は、心にとって生活必需品です。
(長谷川陽子)