不遇のガンダム15話を映画に 安彦良和監督「思い残すことはない」
ガンダムシリーズ第1作の1エピソードを長編映画にした「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」が6月3日、全国公開される。監督は安彦良和。第1作でキャラクターデザインと作画監督を務め、マンガ家としても活躍する74歳のベテランは、「大きな状況に放り込まれた名もなき小さな者たちのドラマ、というファーストガンダム全体のテーマを凝縮した物語になっている」と語る。
1979年7月放送の第15話がベース。主人公アムロが、孤島で戦争孤児を育てる敵ジオンの脱走兵ククルス・ドアンと出会う。兵器と戦いの空しさを訴え、爽やかな後味を残す好編だが、絵の質が乱れていることでも知られる。安彦は当時多忙を極め、15話はキャラデザインしか携われなかった。「不遇の作品。でも話は気に入っていました」
映画は登場する孤児の数を増やし、孤島の日常描写やアムロとの交流を手厚くした。物語もスケールアップ。ドアンの抱えた秘密が孤島での戦闘を呼ぶが、それはジオンと連邦軍の地上での決戦「オデッサ作戦」をも左右する。
ウクライナのオデーサ(オデッサ)が要衝として登場、ジオン側が核で脅すのも第1作の通り。予言めいている。「今になると『何でオデッサだったんだろ?』と思う。この映画を作り始めた時だって世界がこうなるなんて思いもよらなかった。『タイムリー』なんて言葉は良いとは思えないけど、リアルなテーマとして感じてもらえたら」
ガンダムの活躍も増やした。ドアンやジオン軍パイロットの操るザクとの格闘が見どころだ。「例えは古いけど任俠(にんきょう)映画の鶴田浩二さんのような存在。『待ってました!』っていうカッコよさを出した。ドアン(のザク)は池部良さんかな。分かんないでしょうけど」
第1作をマンガでリメイクした「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」を2001~11年に発表。その中からテレビの前日談にあたる部分を、自ら総監督し15~18年にアニメ化した。本編全体をアニメでリメイクする希望はかなわなかったが「ひょんな偶然からドアン編が急浮上し、映画にできた。これでもうファーストガンダムに思い残すことはない」と言い切る。
年を考えるとこれが最後の映画でしょう。『最後』『最後』と言うと、それで客寄せしているみたいでイヤだから、あまり言わないようにしています」
(小原篤)