『仮面ライダーW』はコンビ格差とシンクロする 宮下草薙・宮下さんが見てきた平成ライダーの奥深さ
いつの時代にも「ヒーロー」は存在します。演劇、漫画、アニメ、映画などを観て、「正義は必ず勝つ」と胸を熱くした“あの頃”が誰しもあるのではないでしょうか。
そうしたヒーローの代表格といえるのが『仮面ライダー』(テレビ朝日系/東映制作)です。昭和・平成・令和に渡って放送され、今や子どもだけでなく大人からの人気も高い作品として知られています。過度な妄想が爆発するネガティブ漫才で注目を浴びるお笑い芸人コンビ、宮下草薙の宮下兼史鷹さんも熱烈なファンの1人です。
なぜ仮面ライダーは時代を超えて支持を集めているのでしょうか。平成ライダーの玩具コレクターでもある宮下さんに、その魅力とお笑い芸人との接点について伺いました。
制作:すずきあきら+朝日新聞デジタルスタジオ
撮影:栃久保誠
「思ってた以上に深い」大人になって理解できる仮面ライダー
──そもそもいつ頃から仮面ライダーを好きになったんですか?
リアルタイムではないんですけど、本当に最初に見たのは『仮面ライダーBLACK』(1987年10月~1988年10月)。その続編の『仮面ライダーBLACK RX』(1988年10月~1989年9月)をきっかけに仮面ライダーが好きになりました。RXって一応、平成には入ってるんですよ。ただ、公式には『仮面ライダークウガ』(2000年1月~2001年1月)が平成仮面ライダーの初代。クウガも弟と一緒に毎週楽しみに見てましたね。
──宮下さんは父親が地下格闘家であることを明かしていますが、影響は受けていますか?
オヤジの場合は正義のためじゃない暴力ですから(笑)。むしろ僕は、アンチオヤジというか。「確固たる意志を持った暴力ならアリなんじゃないか」っていうのはありました。オレが仮面ライダーだったら、真っ先に倒すのはオヤジだと思います。
──それって仮面ライダーの設定そのもの(仮面ライダーシリーズでは、時おり父と子がバトルする)じゃないですか(笑)。一般的には、中学生ぐらいで興味がほかに向いてしまう傾向があると思うのですが、一度も離れたことはなかった?
僕はずっと観続けましたね。周りはどんどん離れていって、すごい悲しかったですけど。5歳下の弟がいたので、そこでけっこう粘れたのはあったと思います。玩具も好きだったのもあったし。高校を1年で中退した後も大工で働いて、ぜんぶ趣味(グッズなど)に使っていましたね。
スーパー戦隊もストーリーが深かったりするんですけど、仮面ライダーはより大人向けの感じというか。子どもの頃には理解できなかったけど、大人になって改めて見てみると「思ってた以上に深いな」って気づきがあったりするんです。そこも離れなかった理由の一つだと思います。
『仮面ライダー鎧武/ガイム』の玩具に衝撃を受けた
──今回お持ちいただいたなかで、玩具としての「こだわり」を感じさせるシリーズはどれですか?
玩具として優秀なのは、『仮面ライダー鎧武/ガイム』ですかね。ベルトって基本的に男の子に向けて作られているんですけど、これは女の子のおママゴトで具材を切ったりする(マジックテープでくっついた野菜などを包丁で切るような)玩具の気持ちよさを取り入れてるんですよ。
フルーツ(現物はみかん)を模したロックシードっていうものなんですけど、まずはこれを起動してからドライバー(ベルト中央部分)にセットして、ここ(施錠パーツ)を押します。(と、和風の効果音が鳴り響く)ここから注目なんですけど、横にある刀を倒して、(「ピシャシャッ」という歯切れのよい効果音とともに)みかんを切って変身する(嬉しそうにニヤリ)。これを玩具として売り出すって発表があった時に衝撃を受けましたね。
──これはすごい……。ちなみに大人用の玩具もあったりしますか?
この『仮面ライダー555(ファイズ)』(以下、ファイズ)がそうですね。プレミアムバンダイっていうサイトで受注したCSMシリーズ(大人向けに発売された商品)です。番組開始時に通常販売されている子ども向けのDX版よりも一回りくらい大きい感じで高級感もあります。
仮面ライダーの玩具って、その当時の子供のあこがれみたいなのを形にして、普段手に取れないものを変身アイテムにする傾向があるんです。これはガラケーで、「5」のボタンを3回押してからENTERを叩く(と、ガラケーの両サイドが点滅して警報のような音が鳴る)。それから、ドライバーにセットして変身。DX版だとここまでなんですけど、大人向けになるにあたっていろんな機能が追加されています。
これ(近未来のデジタルカメラ)にミッションメモリー(メモリースティックのようなもの)をセットすることで、赤外線が飛んでベルトと連動する。ちゃんとファイズのマークも出て、劇中で敵を倒す動きが再現できるんですよ。もちろんカメラとしても使用できますし、これ(機体の裏側にある取っ手)を引いて握ると、メリケンサックみたいな感じにもなります。
『仮面ライダーW(ダブル)』は、宮下草薙のコンビ格差とシンクロする
──玩具とは思えないクオリティですね……。大人でも十分楽しめるのが分かります。
ファイズって僕が中1とかに放送されていたんですけど、当時は買えなかったんですよ。「中学生が玩具なんて買うな」っていう親の考えがあって。それが大人になってから発売されたので、迷いなく遊ぶ用、飾る用、保管する用と3つ買いました。5万くらいしましたけど(笑)。
──完全な大人買いですね(笑)。続いて、とくに思い入れの深いシリーズを教えていただけますか?
『仮面ライダーW(ダブル)』ですかね。ほかの仮面ライダーと差別化されているのが、2人で1人のライダーに変身するってところ。この変身アイテムは、USBメモリを使っています。
──放送時期が約10年前(2009年9月~2010年8月放送)ですから、まさに時代の先端ですね。
設定もユニークなんですよ。一方の人間がドライバーにUSBメモリを挿すと、もう一方の人間のドライバーに転送される。その後、もう1人もUSBメモリを挿してから(先端を外側に)開くことで変身します。この時、転送された人間はベルトをしながら気絶して、意識だけがそっち(転送した側の人間)にいって2人で一つ(のライダー)になるんです。
主人公の1人であるフィリップは、ちょっと特殊な人間で能力が高い。反対にもう1人の左翔太郎は、いわゆる努力型。シリーズの中盤で、フィリップの能力についていけなくなっちゃうんです。その影響で、ライダーの身体をうまく動かせなくなったりもするんですけど……。この状況って “じゃない方芸人”と言われている僕に、すごくシンクロするなって思うんですよね(笑)。
──現実世界の「フィリップ」である相方・草薙航基さんに追いつきたいと(笑)。
そうです(笑)。翔太郎は、ハードボイルドにあこがれている半人前の男で、周りからは「ハーフボイルド」ってイジられてたりもする。ただ、誰になにを言われても曲げないってところが僕に似てるなと思って。劇中で翔太郎は、能力の高いフィリップに追いつけずに、とにかくもがいて悩んで努力する。その結果、「もうオレはくじけない!」って言って、最終的に2人で最強のライダーになるんですよ。この「2人じゃないとダメ」ってところに、すごくシンパシーを感じましたね。