宮下草薙・宮下さんが語る、若手芸人のリアルな苦悩と闘い 平成ライダー世代は「どう避けるか」によって進化した
現在、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍する芸人コンビ・宮下草薙。ツッコミ・宮下兼史鷹さんは、相方の草薙航基さんにバラエティ番組での立ち振る舞いを助言するなど、お笑いを分析する職人肌としても知られています。
価値観の多様性、コンプライアンスの厳しくなったテレビ業界など、お笑い芸人に求められるものは昭和から平成で劇的に変化しました。これは、宮下さんがこよなく愛する『仮面ライダー』(テレビ朝日系/東映制作)シリーズにおいても同じことが言えます。どちらも、ある一線を超えないようにしながら進化していったということです。
そんな状況下で、“じゃない方芸人”と称されることもある宮下さん。この境遇をどう分析し、対応しているのでしょうか。平成ライダーと若手芸人との共通項を含め、コンビ結成時から現在までのリアルな闘いに迫ります。
制作:すずきあきら+朝日新聞デジタルスタジオ
撮影:栃久保誠
「オレを売れさせてくれ!」宮下草薙の知られざる結成秘話
──さまざまなメディアで「お笑い界にコイツを出さないのはもったいない」と相方の草薙航基さんを誘ってコンビを結成したと語っています。お笑いの養成所時代から草薙さんはヒーローだったのでしょうか?
草薙をヒーローっていうと、ちょっとあれですけど(笑)。ただ、僕がはじめて「勝てないな」って思った芸人ではありますね。コンビを結成する前って、僕はピンでお仕事をいただいていて、順調っちゃ順調だったんですよ。その時、草薙は別のコンビを組んでいて、結果が出ずに悩んでるような状況で。僕としては、「オレより売れるんだろうな」って想像してたのに、自分より下のところでくすぶってる感じがなんかちょっと嫌だったんです。
だから、自分で言うのもあれなんですけど、当時の心情としては僕がヒーローだと思って(笑)、アイツとコンビを組みました。「もったいないな。救ってあげなきゃ」っていう感覚でしたね。ずっとピンでやりたいって思いがけっこう強くあったんですけど、人のためだから「コンビ組むか」って思えたところはあります。
僕らはいろんなところで結成秘話みたいなのを語ってきたんですけど、草薙がかたくなに隠そうとすることが1つあるんですよ。だいたい草薙が話すのは、「(もともと組んでいた)コンビが解散した次の日に、勝手に宮下がネタ合わせを入れた」ってエピソードなんです。けど実際はそうじゃなくて、ネタ合わせの前日にアイツが僕に電話してきたんですよ。「オレを売れさせてくれ! 助けてくれ、宮下」って。そういう経緯もあったりするから、僕のほうがヒーローなんじゃないかと思ってます(苦笑)。
“じゃない方” だからこそ立ち回れることもある
──まさかそんな裏話があったとは! お笑いを分析する職人肌というイメージのある宮下さんですが、一方でコンビの目立たないほうを意味する“じゃない方芸人”と称されることもあります。芸人として、ご自身のスタンスにどんなこだわりを持っていますか?
コンビで番組に出る時は、草薙が注目されてバンッて笑いとるのが最優先事項。今一番なにが優先なのかを考えますね。草薙がハネない現場とかもあったりするんですけど、その時は“じゃない方”のオレの異質さのほうがハマッたりする。お互いにそんな言わないですけど、そういう空気はなんとなく察知してやってますね。
“じゃない方”って残酷なパッケージだと思うんですけど、逆手にとりやすいものでもあったりするんです。「オレなんかいるのか?」っていう自虐のスタンスでいくとウケやすかったりもしますし。“じゃない方”だからこそ立ち回れることも中にはあるので、悲観し過ぎないようにしなきゃと思いつつ。そもそも“じゃない方”になるだろうなと思ってコンビを組んでるので、どの“じゃない方”よりも“じゃない方” について考えてる自信はあります(苦笑)。
──キングオブ“じゃない方”だと。先月に放送の『アメトーーク!』に出演された際には、「一度解散してゼロからピンでやりたい」「(草薙さんの隣に)いるだけの芸人って必要ですか?」との発言もありました。
僕の感情というよりは、今までのお笑い界の“じゃない方”たちがためていたフラストレーションを言葉にしてしまった感じというか(苦笑)。なんかそういうものが降りてきて、誰から言われたわけでもなく勝手に背負っちゃったんでしょうね。それとは別に、「ピンになる」って話をすれば、満を持して「僕が漫談200本できる」って話ができそうだなっていうのもありつつ。深層心理としては、ピンで認められたいって気持ちはあったと思いますけど、解散したいとはまったく考えてないですね。
平成ライダー世代の若手芸人は「どう避けるか」によって進化した
──平成仮面ライダーシリーズは、「改造人間」ではない仮面ライダーが多く登場しています。ただ、そのことでユニークなキャラクターのライダーが多数現れました。これは、コンプライアンスが厳しくなったテレビ業界における若手芸人のスタンスにも重なるところではないでしょうか?
さすがに照らし合わせたことはなかったですけど、考えてみればたしかにそうですよね。芸人って本来は明るく元気なのがいいって世界だと思うんですけど、僕らはライバルがいないことも視野に入れて、暗くて陰湿な面白さみたいなのをやってきた自負があります。
「これが使えないから、こんな言い方はどうか?」とか、ほかとの差別化をはかるために脳みそを回転させてきたところもあったりするし。そもそもNGなものだったり、すでにあるものだったりを「どう避けるか」によって芸人の多様性が生まれている気はしますね。
それで新しいものが生まれてるってことなんでしょうけど、僕ら世代からしたらしんどいですよ。いろんな正解を提示されている中で、そうじゃないものをやる勇気が必要というか。これが正解だと分かってるのに、そうじゃないことをやるっていう。「もしかして正解じゃないから誰もやってないんじゃないか?」って恐怖もありますし。だから、もうちょい早く生まれたかったなと常日頃、思ってるというか。今は、極めて正解に近いと思われるところでトライしてる感じですね。
正義と悪、2つの視点で描かれる平成ライダーから学んだ「必要悪」
──若手芸人の苦悩を垣間見たような気がします。最後に宮下さんが平成仮面ライダーから「ここを学んだ」というところがあれば教えてください。
たとえば『仮面ライダー555(以下、ファイズ)』でいうと、敵がオルフェノクっていう超人類なんです。オルフェノクは新たな種族になった人たちで、自分たちが生き残るために人間を殺す。反対に人間はたまったもんじゃないので、オルフェノクを倒すっていう設定なんです。
普通は、正義である人間側だけを描くと思うんですけど、ファイズは悪のオルフェノク側の視点も描くんですよ。人間が好きなオルフェノクがいたり、「仲よくしたいけど……」って揺れているオルフェノクもいたりして。「悪の中にも多様性があるんだな」って見ていて感じたんですよね。
まだテレビに出る前に、バイト先でちょっと厳しく怒る先輩がいたんですけど、当時の僕も「これは必要悪だな」と思えた。それってファイズを観ていた影響もあるんじゃないかと。今もそのおかげで、礼儀正しさとかを学べているところもありますし。悪の中にも必要なものがあるなっていうのは、昭和ライダーよりも平成ライダーのほうが学べるかもしれないですね。